研究テーマ

橋やトンネルを、長く大切に使うための研究をしています。

私たちの研究グループでは、老朽化が進むコンクリート構造物を長期間にわたり安全に使い続けるために、「劣化構造物を点検・診断する技術」「補修・補強の効果を評価する技術」「補修後の性能を予測する技術」など、維持管理にかかわる幅広い研究に取り組んでいます。実験室での載荷試験から実構造物での計測、数値解析まで、一貫した体制で研究を進めています。

KEYWORDS コンクリート構造物の維持管理|非破壊検査|補修・補強|メゾスケール数値解析(RBSM)

研究の背景 ― 「補修したあと」まで科学する

日本の橋やトンネルの多くは高度経済成長期に建設され、建設後50年を超える構造物が急速に増えています。すべてを架け替えることは現実的ではなく、点検で劣化を見つけ、適切に補修・補強しながら長く使い続けることが、これからのインフラ管理の前提となります。また、日本だけでなく既に多くのインフラを持っている国や、現在あるいは今後多くのインフラを建設する国も同様で、世界的に適切なインフラの維持管理が求められています。

しかし、補修・補強には未解明の課題が数多く残されています。補修した箇所がふたたび劣化する「再劣化」はその代表例です。これまで、補修した箇所は「直したのだから大丈夫」と考えられがちで、補修部そのものの健全性を評価するという発想自体がほとんどなく、その診断方法も確立されていません。私たちはこの見過ごされてきた領域にいち早く着目し、劣化の診断から補修・補強の効果評価、補修後の性能予測までを一つの流れとして捉えた、「補修したあと」まで含めた維持管理の科学を築くことを目指しています。

レーザーでコンクリートの中を診る

コンクリートの浮きや剥離を見つける打音検査は、点検の基本です。しかし、ハンマーで叩くには構造物に近づく必要があり、高所では足場や専用の点検車が欠かせません。そこで、レーザーで壁面を加振し離れた場所から欠陥を検出する「レーザー打音法」の実用化を、量子科学技術研究開発機構(QST)等と共同で進めています。

ここまでの成果と現在:実際の橋梁で30m以上離れた場所からの欠陥検出に成功し、有効性を実証しました。現在は、装置の小型化と、さまざまな現場で使える汎用的な検査システムへの展開に取り組んでいます。

▸ SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)第3期の取り組み。国際誌・国内学会で発表。

図:実トンネルにおける遠隔レーザー打音検査

劣化の原因を、化学の目で探る

打音検査で物理的な変状(ひび割れや剥離など)に着目するだけでなく、化学反応による劣化の原因やその程度を推定するための分析・評価にも取り組んでいます。コンクリートの劣化の多くは塩害や中性化といった化学反応に起因するため、適切な補修方法を選ぶには「なぜ傷んだのか」の推定が欠かせないからです。表面の元素分布を読み取る分析に加え、レーザーを使って離れた場所から化学分析を行う技術の開発も進めています。

ここまでの成果と現在:実構造物から採取した破片の分析により、鉄・塩素・炭素の分布から腐食の主要因(塩害か中性化か)を判別できる可能性を確認しました。現在は、劣化事例の分析データを蓄積し、劣化の原因だけでなく程度まで推定できる評価手法の構築に取り組んでいます。

▸ SIP第3期の取り組みとして推進。土木学会全国大会等で発表。

図:SEM/EDSによる表面の元素分析(鉄・炭素・塩素)

腐食した鉄筋定着部の耐力を照査する

部材の端部はジョイントからの水の浸入などにより、鋼材腐食が生じやすい部位です。中でも鉄筋の定着部(フック)はコンクリートへの力の伝達を担う要ですが、腐食した場合にどのような変状が生じ、耐力がどこまで低下するのかは明らかになっていませんでした。私たちは、フック部だけを狙って腐食させる電食試験と数値解析により、腐食した定着部の耐力照査に取り組んでいます。

ここまでの成果と現在:腐食によりフック面を中心とした割裂ひび割れが生じること、対象とした供試体では腐食率5%程度で引抜き耐力が半減することを実験で示し、数値解析(3D-RBSM)でも同じ挙動を再現・評価できることを確認しました。腐食した定着部の耐力を解析的に照査する道筋が見えてきており、樹脂注入による補修効果の評価にも展開しています。

▸ 国際誌 Structures(2026)、土木学会論文集ほかで発表。

図:フック部だけを腐食させる電食促進試験

繊維補強コンクリートの性能を評価する

短い鋼繊維を混入したコンクリートは、ひび割れが生じたあとも繊維がひび割れをつなぎとめ、粘り強く抵抗します。ただし、その効果は繊維の量だけでなく「向き(配向)」に大きく左右されることがわかってきました。載荷実験とデジタル画像相関法により、部材の中で繊維がどう働いているのかを調べています。

ここまでの成果と現在:繊維の配向がせん断耐力を3割以上変えうることを実験と解析で確認しました。現在は、配向の影響を考慮した性能評価法の構築と、超高強度繊維補強コンクリート(UFC)を用いた次世代の床版接合技術への展開に取り組んでいます。

▸ 国際誌 Cement and Concrete Composites(2022, 2023)ほかで発表。

図:鋼繊維補強コンクリートはりの曲げ載荷試験
図:曲げ載荷試験の様子

補修後の健全性を打音で診る

断面修復などで補修された箇所は、「治して終わり」ではありません。補修材と元のコンクリートは性質が異なるため、境界面から再び劣化(再劣化)が進むことがあります。しかし、これまで補修部の健全性を点検で評価するという発想自体がほとんどなく、評価方法も存在しませんでした。実際、補修部を叩いたときの音の応答は健全な母材とは異なり、従来の打音検査の判定基準をそのまま適用できないことがわかってきました。この未開拓の課題に、私たちはいち早く取り組んでいます。

ここまでの成果と現在:鋼球落下試験とレーザー打音により、適切に施工された補修部でも既存の評価指標では「健全」と判定されない場合があること、再劣化は補修界面に沿って浮き・剥離として進むことを実験で明らかにしました。現在は、補修部に適用できる新しい打音評価指標の確立に取り組んでいます。

▸ 補修部の再劣化メカニズム研究と一体で推進中。

図:断面修復部の打音検査による損傷評価(コンター図)

壊れ方をコンピュータで再現し、将来を予測する

実験でわかることには限りがあります。そこで私たちは、ひび割れの1本1本、鋼繊維の1本1本までモデル化できる3次元剛体バネモデル(RBSM)を用いて、コンクリート内部の破壊過程をコンピュータの中に再現しています。荷重による内部のひび割れや損傷の進展だけでなく、鋼材腐食のような化学的劣化に起因する現象も扱えるため、構造物の耐久性にかかわる評価にも適用できます。実験で得られた知見を解析モデルに落とし込むことで、実験では扱えない実物大の構造物や、構造物ごとに異なる条件に合わせた性能評価が可能になります。

ここまでの成果と現在:鉄筋の腐食膨張によるひび割れ進展、フック定着部の応力伝達、繊維補強の効果などを高い精度で再現できることを、実験との比較により示してきました。現在は、腐食・補修・補強後の構造物が将来どのような性能を発揮するかの予測へと、適用範囲を広げています。

▸ 上記すべてのテーマを解析面から支える、研究グループの基盤技術です。

図:数値解析で再現したコンクリート内部の応力分布

実験と数値解析の両輪で、現場の課題に取り組んでいます。

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